脊髄小脳変性症患者の海外旅行の注意事項
脊髄小脳変性症と海外旅行
脊髄小脳変性症は、徐々に身体の機能が失われていきます。身体が動かなくなるのであれば、海外旅行へ行くのは無理だと諦めてしまう方も多いでしょう。
しかし、この病気と闘いながらも、海外旅行へ行っている方はいらっしゃいます。
大手旅行会社では、車椅子や杖を利用しているなどの身体の不自由な方向けのバリアフリーツアーを行っているところもあります。通常のツアーであっても、車椅子の方を受け入れてくれるものもあります。
もちろん海外旅行へ行くときには、主治医と相談して万全の態勢でいく必要があります。でも、難病だから、車椅子だからといって海外旅行をあきらめるなんてもったいないです。旅行がお好きであれば、次のことには気をつけて、どうか海外旅行を楽しんでいただきたいです。
薬剤証明書や診断書を携行する
旅行へ行くときも普段服用している処方薬を持っていく必要がありますが、処方薬を持って海外へ行くとき、入国審査でトラブルになる可能性もあります(日本では合法な薬であっても、海外では違法な薬があるため)。
そのようなトラブルを避けるために、旅行の前に必ず「英文薬剤証明書」を主治医に発行してもらいましょう。薬剤証明書があれば、治療のための適切な薬であることが証明されるので、トラブルを避けられます。
また、薬剤証明書と一緒に、医師の診断書を併せて持っていると心強いですね。渡航先で体調が悪化したときに、診断書があれば適切な処置をして貰えるでしょう。
薬は多めに持っていく
海外では、どのようなトラブルがあるかわかりません。航空機のトラブルで、予定よりも長く滞在せざるをえないことも考えられます。そのようなトラブルに備えて薬は多めに持って行きましょう。
(車椅子の場合)座り慣れた車椅子など、普段から使っているものを持っていく
海外旅行へ行くときも、日常に近い状態で過ごせることでストレスが軽減されます。荷物が多くなってしまうかもしれませんが、普段から使用しているものを持って行きましょう。座り慣れた車椅子はもちろん、急な天候悪化に備えて雨よけのポンチョや、足を揃えておくバンド、屋内に入るときにタイヤを拭く雑巾など持っていくと良いでしょう。
航空機内では、首を支えるためのエアークッションがあるといいですね。
飛行機では隣に同行者が必ず座る
脊髄小脳変性症は、症状が進むと身体の平衡感覚が徐々に失われ、左右どちらかに身体が傾いてしまうこともあります。そのようなときは、傾いている側に同伴者が座り、支えてあげると良いです。
また、長時間のフライトで身体が強張ったときには、同伴者が座りなおしてあげてください。
海外旅行傷害保険には必ず加入しておく
渡航先での体調悪化等、万が一に備えて海外旅行保険の加入しておきましょう。海外では健康保険が効かないため、病院にかかったときの治療費はかなり高額になります。
ただ、後縦靭帯骨化症などの持病がある場合、健康状態の告知に引っかかり海外旅行保険に加入できないことや、持病については補償対象外とされてしまうケースがあります(治療をしていなくても、経過観察のために定期的に通院していれば告知対象となるのでご注意ください)。
国内の保険会社では東京海上日動火災保険とAIG保険会社の2社が、持病も補償される海外旅行傷害保険を販売しています(旅行期間が31日まで)。
東京海上日動火災保険では最寄りの保険代理店を探して加入することになり、AIG保険会社ではインターネットからも加入することが可能です。
他の保険会社でも保険代理店などの窓口で相談すれば加入できるかもしれませんので、詳しくは各保険会社に問い合わせてみましょう。
窓口での加入の場合は加入審査に時間がかかったり、申し込みをしても加入を断られることもあるので、保険の手続きは余裕をもって早めに済ませておきましょう。
主治医には必ず相談する
上記に述べたことは、気をつけるべきことのほんの一部です。
海外旅行へ行かれるときは主治医や同伴者と相談し、無理のない範囲で最大限に楽しんでください。
そもそも脊髄小脳変性症とはどんな疾患なのか?
脊髄小脳変性症は、単体の病名ではなく、運動失調を主な症状とする神経疾患の総称です。
2005年に放映された「1リットルの涙」というドラマで、この病名を耳にしたことがある方も多いでしょう。
脊髄小脳変性症は、遺伝性のものと非遺伝性のものがあります。遺伝性は全体の3~4割ほどです。
日本では、遺伝性の脊髄小脳変性症の中では、脊髄小脳失調症3(マチャド・ジョセフ病)と脊髄小脳失調症6の割合が多く、それぞれ3割ほどを占めます。
一方、非遺伝性の脊髄小脳変性症の中では、過半数を多系統萎縮症(シャイ・ドレーガー症候群、オリーブ橋小脳変性症、線条体黒質変性症)が占めます。
いずれの場合も、神経細胞が徐々に破壊されていき、身体の自由がきかなくなっていきます。発病から5年ほどで、車椅子の生活になる方が多いです。
完治することは難しく、薬物治療で運動失調の症状を改善させたり、リハビリを行ったりして、少しでも病気の進行を遅らせます。
この記事の参考文献・Webサイト
- 東邦大学医療センター佐倉医院
- 難病情報センター(公益財団法人 難病医学研究財団)
公開日:
最終更新日:2024/09/11