難病患者の海外旅行ガイド

難病・特定疾患の方へ。海外旅行の前にご覧ください。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチー患者の海外旅行の注意事項

慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチーと海外旅行

海外旅行

慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチーの人が海外旅行に行く時は、次のことに気をつけて旅行を楽しみましょう。

基本的な感染症対策を行いましょう

治療状況によっては風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなったり、症状が悪化したりするリスクがあります。
そのため、こまめな手洗いうがいと、人混みでのマスクの着用など、基本的な感染症対策を徹底しましょう。

休憩と休養を確保した計画を立てましょう

疲労や体調の悪化に備えて、前もってスケジュールに休憩時間を組み込んだり、休憩を取りやすいよう余裕のある計画を立てたりするといいでしょう。
せっかく旅行に来たのだからと無理をしたくなる気持ちを抑えて、体調第一で活動することが重要です。

使い慣れたアイテムを持参しましょう

筋肉の低下により、普段から補助アイテムを使用している人は、可能な範囲で使い慣れたアイテムを持参しましょう。
特に、箸やスプーンなどの食事時のアイテムは重要です。

薬剤証明書を携行する

薬を飲んでいる人は、旅行日程分よりも多めに準備し、事前に英文の薬剤証明書を取得して手荷物として携行するようにしましょう。
荷物の紛失や盗難に遭う恐れもあるため、手荷物と預入荷物に分けて入れるなどの工夫も有効です。

海外旅行傷害保険には必ず加入しておく

海外での急な体調悪化などの予期せぬトラブルに備えて、出発前に海外旅行傷害保険に加入することが大切です。
海外では医療費が全額自己負担となるため、保険に加入していないと高額な請求を受けることになります

ただし、慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチーなどの持病がある人は、海外旅行傷害保険に加入できないことも多く、加入できたとしても持病が補償対象外となってしまうことがあります。
国内の保険会社では、東京海上日動火災保険とAIG損害保険の2社が、持病も補償される海外旅行傷害保険を販売しています(旅行期間31日までが対象)。
東京海上日動火災保険はお近くの保険代理店で加入手続きができ、AIG損害保険では保険代理店やインターネット経由で加入することが可能です。

他の保険会社でも保険代理店の窓口などで加入できる可能性もありますので、各保険会社に問い合わせてみるといいでしょう。
窓口での加入は手続きに時間がかかることがあるほか、加入を断られてしまうこともありますので、渡航前に余裕をもって手続きしておくことが大切です。

そもそも慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチーとはどんな疾患なのか?

診察風景

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)や多巣性運動ニューロパチー(MMN)は、末梢神経のさまざまな部位に炎症が起こり、炎症によって運動神経に障害が生じる疾患です。

CIDPは2020年時点で国内に約5,000人の患者がいるとされ、発症は男性にやや多く、2~70歳と幅広い年代で発症する可能性があることがわかっています。
MMNはCIDPよりも少なく、2010年の全国疫学調査では約400人の患者がいると推計されています。
こちらも男性にやや多く、10代後半~60代までの年代に発症し、40代に多いことが報告されています。

この疾患は、末梢神経のミエリン(髄鞘)が免疫系に障害されることが原因で起こります。
神経細胞同士で情報を伝達する時に軸索という部分を通りますが、軸索はミエリンという脂質に富んだ物質が周囲を覆っています。
CIDP・MMNは、体に備わった免疫系がミエリンを敵とみなして攻撃する自己免疫疾患のひとつです。

これまで原因は特定されていませんでしたが、近年の研究で特異的な自己抗体を持つ患者がいることがわかり、免疫系が自己抗体を作って自分の神経を攻撃することが指摘されています。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチーの症状

CIDPの症状には典型的なタイプと非典型的なタイプがあります。
最も多いとされる典型的CIDPは、手足に力が入らなくなり、筋力の低下や筋委縮が生じる運動障害と、手足のしびれや麻痺などの感覚障害が手足に左右対称に生じます。
症状は二の腕や太ももなど体幹に近い部分から、手先や足先の体幹から遠い部分の広範囲に起こります。

一方のMMNは、手足の運動障害が手先などの体幹から遠い部位に左右非対称に生じ、感覚障害はないか、あっても軽度です。
症状が進行すると、徐々に筋肉がやせて筋委縮が生じることもあります。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチーの治療方法

CIDPでは、副腎皮質ステロイド薬は基本的に内服薬が用いられますが、症状の重い場合は点滴により用いられることもあります。
このほか、血液製剤によって体内の免疫反応を調整する免疫グロブリン療法や、血液中の病気に関係する物質を取り除いて体内に戻す血液浄化療法などがあります。
MMNでは免疫グロブリン療法が用いられます。

治療開始が早期であるほど治療効果が良好となるため、早期発見・診断が重要です。
また、再発リスクがあることから、長期間にわたって定期的な治療を継続する必要があります。

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