難病患者の海外旅行ガイド

難病・特定疾患の方へ。海外旅行の前にご覧ください。

筋萎縮性側索硬化症患者の海外旅行の注意事項

筋萎縮性側索硬化症と海外旅行

海外旅行

筋萎縮性側索硬化症の方が海外旅行へ行くときは、事前に主治医に相談し、行先やスケジュールのほか、体調が悪化した時の対処法などしっかりと確認しておくことが大切です。
また、利用する交通機関や宿泊施設への事前連絡やサポートの手配など、十分な準備が肝要です。

無理のないスケジュールと行動を

体力の必要な観光地を訪れた翌日はゆっくりできるスケジュールにするなど、体調に無理のないスケジュールを組むことが大切です。
また、宿泊施設を起点に移動距離の少ない観光地を選び、体調が悪化した時にすぐに宿泊施設に戻れるようにしておくのもいいでしょう。
旅行計画を組む時には、具体的な移動距離や車いすが通れる道があるか、多目的トイレの場所なども確認しておくと安心です。

食事に関する手配や準備を

嚥下障害のある場合は、嚥下機能調整食が提供してもらえるか、あるいはキッチンハサミやミキサーを借りることができるかなど、確認しておくといいでしょう。
また、日本と違って現地で食べられるものが確保できないリスクもあるため、食べ慣れた嚥下機能調整食のレトルト食品を持って行くことも大切です。

交通機関や宿泊施設は事前確認を

電動車いすや人工呼吸器など医療機器を使用している場合、交通機関や宿泊施設への事前連絡が必要となることがあります。
特に航空機に医療機器を持ち込む場合には、所定の書類が必要となるなど航空会社によって対応内容が異なるため、必ず連絡が必要です。
宿泊施設では、車いすに対応した部屋か、ベッド周辺に呼吸器などの医療機器を置くスペースがあるかなどの情報も確認しておきましょう。

薬剤証明書を携行する

医療機器を使っている人や、薬を飲んでいる人は、念のため英文の診断書や薬剤証明書を準備しておきましょう。
機内へ持ち込むために診断書の提示を求められたり、保安検査で説明を求められたりするなど、トラブルの際に有用です。
また、何らかの理由で帰国が遅れたり、紛失や盗難に遭ったりした場合に備えて、薬は旅行日数分よりも多めに持って行くといいでしょう。

海外旅行傷害保険には必ず加入しておく

海外での急な体調悪化など、予期せぬトラブルに備えて海外旅行傷害保険に加入しておきましょう。
海外では医療費が全額自己負担となるため、保険に加入していないと高額な請求を受けることになります

ただし、IgA腎症などの持病がある人は、海外旅行傷害保険に加入できなかったり、持病が補償対象外となってしまったりすることがあります。
国内の保険会社では、東京海上日動火災保険とAIG損害保険の2社が、持病も補償される海外旅行傷害保険を販売しています(旅行期間31日までが対象)。
東京海上日動火災保険は最寄りの保険代理店で加入手続きができ、AIG損害保険では保険代理店のほかインターネットでも加入することが可能です。

他の保険会社でも保険代理店などの窓口で加入できる可能性もありますので、各保険会社に問い合わせてみるといいでしょう。
窓口での加入は手続きに時間がかかったり、加入を断られてしまったりする可能性もありますので、渡航前に余裕をもって手続きしておくことが大切です。

そもそも筋萎縮性側索硬化症とはどんな疾患なのか?

診察風景

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、全身の筋肉が徐々に動かなくなっていく疾患です。
初期に症状の現れる部位が異なっていても、やがて呼吸するための筋肉(呼吸筋)が動かなくなると呼吸困難となり、人工呼吸器が必要となります。
進行性の疾患で、発症すると症状が軽くなることはありません。

患者数は国内に約1万人で、男女比では男性のほうがやや多く、女性と比較して1.3~1.5倍程度と言われています。
発症は中年期以降の年代で多く、最も多いのが60~70代です。
原因は不明とされていますが、家族からの遺伝が10%程度あるとみられています。

筋萎縮性側索硬化症の症状

初期症状は、手足に力が入りにくくなる「四肢型」と、舌や口が動きにくい「球麻痺型」の2つのタイプがみられます。
四肢型では、手指が使いにくく物がつかみにくい、足が前に出ない、しゃがんだ姿勢から立ち上がりにくいなど、手や足の筋肉が侵されます。
球麻痺型では、舌や口が動きにくくなり、食べ物が飲み込みにくくなる嚥下障害のほか、ろれつが回りにくく話しづらい、「ら行」や「ぱ行」が発音しづらいなど構音障害が現れます。

ALSは筋肉そのものではなく、運動ニューロンという筋肉を動かすための脳や脊髄の神経だけが障害をうける疾患です。
脳が出している「手足を動かせ」「舌や口を動かせ」という指令が伝わらなくなるため、力が弱くなり、筋肉が痩せていきます。

一方で、脳や脊髄などの中枢神経、感覚神経、自律神経は比較的ダメージを受けにくいことから、体の感覚や視力、聴覚などの五感、知能や内臓機能は保たれます。

筋萎縮性側索硬化症の治療方法

現在のところ、ALSの治療薬はありません。
進行を遅らせる薬が用いられるほか、治験が進められていることから、新薬の治験に参加できることがあります。
また、筋肉や関節の痛み、不安からくる不眠など、ALSにともなって現れる症状に対しては、それぞれの症状をおさえる薬がもちいられます。

症状が進行し、呼吸筋が侵され呼吸困難となった場合には、人工呼吸器が用いられます。
人工呼吸器が使用される場合でも、訪問看護師やヘルパー、医師の往診などを受けながら在宅での生活です。

また、筋肉や関節の痛みに対しては、毎日のリハビリが大切です。
導入施設に限りがあるものの、ロボットスーツ「HAL」を使用したリハビリも保険診療として認められています。
症状の進行によって、話しにくくなったり手の力が入りにくくなったりすると、家族や医療スタッフなど他者とのコミュニケーションが難しくなるため、新たなコミュニケーション手段の習得が重要となります。

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