慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者の海外旅行の注意事項
慢性血栓塞栓性肺高血圧症と海外旅行
慢性血栓塞栓性肺高血圧症の方が海外旅行へ行くときは、事前に主治医に相談し、次のことに気をつけて旅行を楽しみましょう。
無理のない行動をする
旅行中はしっかり休憩を取る、重い荷物はなるべく手持ちしないなど、無理がなくゆとりのある行動を取りましょう。
過度な運動は身体の負担になるため、できるだけバスやタクシーなどの交通機関を使って移動することがおすすめです。
また、航空機内は酸素濃度が低く抑えられているため、必要に応じて酸素ボンベなど医療機器の手配も必要となる場合があります。
気温差・寒暖差に注意する
温度差の大きい場所は肺や心臓に負担がかかり、症状の悪化に繋がります。
特に外気が冷たく部屋の中が暖かい場所など、寒暖差が負担になることがあるため注意しましょう。
また、感染症対策として、こまめな手洗いうがい、マスクの着用も重要です。
塩分控えめの食事を手配する
海外旅行先では食事も楽しみのひとつではありますが、心臓に負担のかかる塩分や水分は控えめにすることが大切です。
また、抗凝固薬を飲んでいる場合には普段から納豆が食べられないなど制限がありますが、海外の食事でも食べられない食材や料理がある可能性もあるため、事前に確認しておくといいでしょう。
薬剤証明書を携行する
服用中の薬がある人は、念のため英文の薬剤証明書を取得して、手荷物に入れて携行しましょう。
荷物は紛失や盗難の恐れもあるため、薬は日数分よりも多めに準備して、手荷物と預入荷物に分けて持ち運ぶなどの工夫も大切です。
海外旅行傷害保険には必ず加入しておく
海外での急な体調悪化など、予期せぬトラブルに備えて海外旅行傷害保険に加入しておきましょう。
海外で病院を受診すると、かかった医療費が全額自己負担となるため、保険に加入していない場合は高額な請求を受けることになります。
ただし、慢性血栓塞栓性肺高血圧症などの持病がある人は、海外旅行傷害保険に加入できなかったり、持病が補償対象外となってしまったりすることもあるため確認が必要です。
国内の保険会社では、東京海上日動火災保険とAIG損害保険の2社が、持病も補償される海外旅行傷害保険を販売しています(旅行期間31日までが対象)。
東京海上日動火災保険は最寄りの保険代理店で加入手続きができ、AIG損害保険では保険代理店のほかインターネットでも加入することが可能です。
他の保険会社でも、保険代理店などの窓口から加入できる可能性もありますので、各保険会社に問い合わせてみるといいでしょう。
窓口での加入は手続きに時間がかかったり、加入を断られてしまったりする可能性もありますので、渡航前に余裕をもって手続きしておくことが大切です。
そもそも慢性血栓塞栓性肺高血圧症とはどんな疾患なのか?
血のかたまりである血栓が肺動脈に詰まることで息苦しさや胸痛などが起こる急性肺血栓塞栓症はエコノミークラス症候群とも言われています。
この血栓を放置しておくと血液が肺へ流れにくくなり、肺動脈の圧力が上がり、肺高血圧症が生じます。
この、血栓が肺動脈にこびりついて肺高血圧症となったものを、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)といいます。
この疾患は女性患者のほうが男性患者の3倍と多く、加齢とともに発症が増え、70代がピークとなると言われています。
急性肺血栓塞栓症患者の3%程度がCTEPHに移行すると言われていますが、CTEPH患者には急性肺血栓塞栓症の自覚がない人も多くいます。
その他、血液の凝固異常や線溶系異常が原因となることもありますが、極めて稀です。
日本では中高年の女性で血管炎と関連する患者が見られることが特徴とされているほか、基本的に遺伝はないとされています。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症の症状
発症の初期は安静時の自覚症状がないとされています。
一方で、動く時に多くの酸素が必要となることから、ある程度進行すると体を動かす時の息苦しさや、疲れやすさ、さらに進行すると心臓の機能がより低下して、足のむくみを生じたり、少し体を動かしただけで息苦しさを感じたりするようになります。
肺の血栓や塞栓が繰り返し生じている患者は、突然の軽度の息苦しさや胸痛を繰り返していますが、それほど重篤な症状ではないことから、そのままにしてしまっていることもあります。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症の治療方法
息苦しさが強くなっている場合は、血栓や塞栓の範囲が広がっていることが想定され、早急な治療が必要です。
この疾患では内服薬、外科治療、カテーテル治療などが行われます。
内服薬には、血液をサラサラにするための抗凝固薬が用いられます。
すでにできている血栓を溶かすことはできないものの、これ以上悪くならないために必要な治療で、生涯飲み続けることになります。
また、血管を広げて血液を流れやすくするために肺血管拡張薬が用いられます。
ほかにも、血栓を取り除く手術が行われることがありますが、効果が証明されているものの、体への負担が大きい治療です。
手術が向かない患者や望まない患者、手術後も症状が残ってしまった患者に対しては、血管の詰まりや細くなった部分をバルーンで広げるカテーテル治療が行われることもあります。
この記事の参考文献・Webサイト
- 難病情報センター(公益財団法人 難病医学研究財団)
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