難病患者の海外旅行ガイド

難病・特定疾患の方へ。海外旅行の前にご覧ください。

筋ジストロフィー患者の海外旅行の注意事項

筋ジストロフィーと海外旅行

海外旅行

筋ジストロフィーは疲労や筋肉痛が生じない範囲であれば、旅行など日常生活に制限は行われません。
海外旅行を計画している人は、症状や治療状況などに応じて事前に主治医に相談し、次のことに気をつけて旅行を楽しみましょう。

転倒に注意しましょう

筋ジストロフィーの人は、筋力が低下していることにより転倒リスクがあります。
しかし転倒してケガをしてしまうと動けない時期ができ、筋肉が弱る原因となります。
そのため、特に段差など足元には注意し、転倒しないよう気を付けてゆっくり歩くようにしましょう。

感染症予防を徹底しましょう

ステロイド療法を行っている場合、薬の作用によって免疫力が低下し、細菌やウイルスを原因とした感染症にかかりやすくなります。
こまめな手洗いやうがい、人混みでのマスクの着用など、基本的な感染症予防を徹底しましょう。

無理のない行動量にしましょう

筋ジストロフィーの人も身体の状態に合わせて適度な運動を行うことが推奨されていますが、旅行先ではいつもより負荷がかかってしまうことがあります。
「少し疲れる」というくらいの運動量を限度として、疲れすぎないような計画を組んだり、スケジュールを柔軟に調整することが大切です。
また、夜はしっかりと睡眠を取るなど、体力の回復に努めることも重要です。

薬剤証明書を携行する

薬を飲んでいる人は、念のため渡航前に英文の薬剤証明書を取得して、手荷物に入れて携行しましょう。
自分で使用する薬は航空機内に持ち込むことが認められていますが、空港の保安検査で確認されることもあります。
また、薬を含めた荷物の紛失や盗難などのトラブルに備えて、旅行日数よりも少し多めに持って行くことが大切です。

海外旅行傷害保険には必ず加入しておく

海外での急な体調悪化など、予期せぬトラブルに備えて海外旅行傷害保険に加入しておくことが大切です。
海外では医療費が全額自己負担となるため、保険に加入していないと高額な請求を受けることになります

しかし、筋ジストロフィーなどの持病がある人は、海外旅行傷害保険に加入できなかったり、持病が補償対象外となってしまったりすることもめずらしくありません。
持病も補償される海外旅行傷害保険は、国内の保険会社では、東京海上日動火災保険とAIG損害保険の2社が販売しています(旅行期間31日までが対象)。
東京海上日動火災保険は最寄りの保険代理店で加入手続きができ、AIG損害保険では保険代理店のほかインターネットでも加入することが可能です。

他の保険会社でも保険代理店などの窓口で加入できる可能性もありますので、各保険会社に問い合わせてみるといいでしょう。
窓口での加入する場合は手続きに時間がかかることがあり、加入を断られてしまう可能性もありますので、渡航前ギリギリではなく事前に余裕をもって手続きしておくことが大切です。

そもそも筋ジストロフィーとはどんな疾患なのか?

診察風景
筋ジストロフィーにはさまざまな型がありますが、共通しているのは身体の筋肉が壊れやすく再生されにくいということです。
どの型も、筋繊維に必須な構成たんぱく質が作れなくなることで筋肉の筋繊維が変性し、壊れやすくなり、再生が追いつかず、徐々に筋力の低下が進みます。
さらに筋委縮や運動機能障害のほか、さまざまな合併症が生じます。

原因についての研究が進められているものの、未だ未解明な部分も多くありますが、成人に最も多い筋強直性ジストロフィーでは、優性遺伝による遺伝の可能性があることがわかっています。
一方、小児に多いデュシェンヌ型は、幼児期(3~5歳頃)に発症し、男児に多い型です。
デュシェンヌ型は、親世代からの遺伝のほか、国内患者の4割程度は突然変異によって遺伝子の変異が生じていることが報告されています。

筋ジストロフィーの症状

筋ジストロフィーにはさまざまな型がありますが、筋力の低下、筋委縮が生じることにより、運動機能障害が生じることが共通しています。
筋肉の機能に関わる構成たんぱく質の障害部位により病型が異なり、症状の経過や合併症が異なります。

例えば、成人で最も多い筋強直性ジストロフィーでは、顔や喉、手足などさまざまな部位に筋力の低下や筋委縮が生じます。
筋力が保てなくなり、食べ物の嚙みにくく飲み込みにくくなる、手で物を掴みにくくなる、躓きやすくなるなどの症状が現れます。

また、ミオトニア筋強直現象と言われる、筋肉に刺激が加わった時に生じるこわばりは、筋強直性ジストロフィーの特徴的な症状のひとつです。
さらに、筋肉だけではなく臓器にも障害が現れ、呼吸器症状や心機能異常、中枢神経異常、消化器症状などさまざまな症状が現れます。

小児に多いデュシェンヌ型は、ジストロフィン遺伝子の変異によってジストロフィンという筋肉の構造を保つたんぱく質が作られず筋力が徐々に低下し、身体の中心に近い部分から筋力の低下が始まります。

筋ジストロフィーの治療方法

現在のところ、筋ジストロフィーに対する根本的な治療薬は確立されていないものの、新薬の開発が行われています。
筋ジストロフィーには型が多く、生じる症状や合併症が異なるため、症状に合わせた対症治療や予防が行われます。
また、適切な運動療法や呼吸訓練など、専門家の指導をもとにしたリハビリテーションも重要です。

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