重症筋無力症患者の海外旅行の注意事項
重症筋無力症と海外旅行
重症筋無力症の患者の大半は、日常生活を問題なく送ることができます。
もちろん海外旅行にも行けますが、海外旅行へ行く際には次のことに気をつけましょう。
スケジュールは無理なく組む
重症筋無力症に過労とストレスは禁物です。旅先でのスケジュールは余裕を持ちましょう。また、夕方以降に疲れがひどくなる場合が多いので、夕方以降は宿泊先でゆっくり過ごすようにしましょう。
ワクチン接種に気をつける
海外旅行へ行く場合、渡航先によっては、感染症対策のために短期間の滞在であってもワクチンの接種を勧められることがあります。
ステロイド剤や免疫抑制剤を投与している場合、生ワクチンの接種はできないので、生ワクチンの接種を勧められる地域は避けたほうが良いでしょう(例えば、中南米や中央アフリカは黄熱病の流行地域で、渡航前に黄熱病の生ワクチン接種を推奨されています)。
不活化ワクチンは接種可能ですので、推奨されているのであれば接種し、感染症の対策をしましょう。
薬剤証明書を携行する
重症筋無力症は、日常生活が問題なく過ごせても、投薬治療を続ける必要があります。海外旅行へ行く際には、日常的に服用している薬は忘れずに持って行きましょう。海外で災害や事故にあって予定通り帰国できなくなる可能性もあるので、薬は旅行日数分より多く持っていったほうが安心です。
海外旅行へ行く場合も、処方薬を携行する必要があります。ただ、入国審査の際に処方薬を持っているとトラブルになる恐れがありますので、そのようなことを避けるために渡航前に主治医から英文の「薬剤証明書」を書いてもらい、携行しましょう。
薬剤証明書には、「薬の名称」や「どのような治療に利用されているか」等が記載されます。薬剤証明書によって適正な治療のために利用されていることが証明されれば、不要なトラブルに巻き込まれることなく入国することができます。
また、薬剤証明書があれば、渡航先で体調が悪化した場合も、同様の薬を処方してもらえます。薬剤証明書に加え、医師の診断書も携行すると、更に心強いですね。
海外旅行傷害保険には必ず加入しておく
渡航先での体調悪化等、万が一に備えて海外旅行保険の加入しておきましょう。海外では健康保険が効かないため、病院にかかったときの治療費はかなり高額になります。
ただ、重症筋無力症などの持病がある場合、健康状態の告知に引っかかり海外旅行保険に加入できないことや、持病については補償対象外とされてしまうケースがあります。
国内の保険会社では東京海上日動火災保険とAIG保険会社の2社が、持病も補償される海外旅行傷害保険を販売しています(旅行期間が31日まで)。
東京海上日動火災保険では最寄りの保険代理店を探して加入することになり、AIG保険会社ではインターネットからも加入することが可能です。
他の保険会社でも保険代理店などの窓口で相談すれば加入できるかもしれませんので、詳しくは各保険会社に問い合わせてみましょう。
窓口での加入の場合は手続きや加入審査に時間を要しますので(加入を断られる場合もあります)、申し込みをしても加入を断られることもあるので、保険の手続きは余裕をもって早めに済ませておきましょう。
そもそも重症筋無力症とはどんな疾患なのか?
重症筋無力症は、自己免疫疾患の一種です。神経から筋肉に信号を伝えるのに重要な「アセチルコリン」という物質を「コリンエステラーゼ」という物質が攻撃することで、神経からの信号が筋肉にうまく伝わらなくなる病気です。日本では、20,000人以上の患者がいると推定されます。
筋肉に神経からの信号がうまく伝わらなくなると、筋力が低下し、様々な症状を引き起こします。
重症筋無力症の症状
○疲れやすくなる:物を噛んだり、歯を磨くだけでも疲れてしまいます。また、この症状は朝は軽く、夕方以降に重くなることが多いです。
○物が二重に見える(複視)、まぶたが下がる(眼瞼下垂)
重症化すると自力での呼吸が困難となり、人工呼吸器をつける必要が出てきます。
ただ、早期発見・早期治療が可能であるため、ほとんどの場合、予後は良好です。多くの方が日常生活を問題なく送ることができますが、完治することは稀であり、投薬等の治療を続けていく必要があります。
重症筋無力症の治療
○対症療法:コリンエステラーゼの活性を抑制し、アセチルコリンの作用を増強させる薬剤の使用
○免疫療法:ステロイド剤や免疫抑制剤の投与。病気の原因となる物質を取り除くための血漿交換療法。
その他、胸腺腫を合併した場合には、胸腺の摘出手術をすることもあります。
日常生活では、過労やストレスに気をつける他、免疫療法中は生ワクチンの接種ができないので注意が必要です。
この記事の参考文献・Webサイト
- 難病情報センター(公益財団法人 難病医学研究財団)
- Yahoo!ヘルスケア
- 海外旅行医学ハンドブック(山と溪谷社 2003/3/1)
公開日:
最終更新日:2024/09/11